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名古屋高等裁判所 昭和35年(ラ)60号 決定

抗告人 苦林京子

訴訟代理人 榊原幸一

主文

本件抗告を棄却する。

抗告費用は抗告人の負担とする。

理由

抗告の趣旨ならびに理由は別紙記載のとおりである。

記録によると抗告人主張のように抗告人が申請人となり、永安株式会社代表取締役三枝了を相手取つて代表取締役職務執行停止の仮処分申請をなし、昭和三十四年十二月十五日同申請が許容せられ、右三枝了の職務代行者に弁護士宗本甲治が選任せられたことが認められる。

本件記録編綴の辞任届(本件記録五丁以下)によると右株式会社の取締役及び監査役全員は昭和三十五年三月二十一日右代表取締役三枝了を含めて全員辞任をなしたことが明らかである。

そして少数株主より臨時株主総会招集請求が右取締役、監査役の選任を会議の目的として為されたことは臨時株主総会招集請求書(本件記録十二丁以下)許可申請人主張のように取締役会の決議があつたことは取締役会議事録(本件記録十九丁以下)によつていづれも認められる。前記の辞任により取締役、監査役を選任するのは、同辞任により欠缺するに至つた会社の重要機関を整備するの必要上遅滞なく臨時株主総会を開催することを要する。

抗告人所論の三ないし八のような株式数の未確定または検査役申請事件の申請事由について検査役選任申請書(本件記録二十六丁以下)だけではその疏明があつたと認められないばかりか、前の説示の必要性上所論の株式数の確定または検査役申請事件の終了まで前記株主総会の開催をまつことが出来ないこと明である。

同総会の選任の結果代表取締役三枝了が離任する結果になると、前記仮処分と何等背馳しないばかりか、却つて帰趨を同じくする場合も生ずることが考えられる。従つて抗告人の抗告理由は理由なく、その他記録を精査するも原決定取消の理由となるに十分な瑕疵を発見できないので、本件抗告はこれを棄却することとし、非訟事件手続法第二十五条、民事訴訟法第四百十四条、第三百八十四条、第八十九条、第九十五条に従い主文の通り判決する。

(裁判長裁判官 県宏 裁判官 越川純吉 裁判官 奥村義雄)

抗告の理由

一、抗告人が申請人となり、永安株式会社代表取締役三枝了が被申請人となつて、御庁に右三枝了の代表取締役職務執行停止の仮処分申請をなし、右申請が許容せられ右三枝了の職務執行代行者に弁護士、宗本甲治が就任した。

二、ところが、昭和三十五年三月二十八日右代行者宗本甲治より御庁に対し臨時株主総会招集についての許可申請がなされ同日、之が認められ決定がなされた。

三、抗告人は、永安株式会社の株券の発行方法につき重大な違法行為があり各株主の株式数の確定の慎重なる手続を経た上株主総会を開催せらるべき旨職務代行者に申出でたるところ代行者は取締役会の決議ありたるにより総会開催許可申立をなさるに至つたのであるがこれは形式的なる株主名簿によつて株主総会を開催せられることによつて抗告人若林京子のみならず、少数株主の権利を違法に侵害せられるおそれがあり、裁判所の適正なる公的制約がなさるべきものと考えます。

四、抗告人他四名は別紙写の如く検査役選任申請を本日御庁に提出し

(一) 永安株式会社が昭和三十四年三月一日会社株券を発行したる際その発行の手続並に株主に対する株券の割当数に法令に違反する重大な事実はないか。

(二) 取締役三枝了(現在職務執行停止中)が商法第二六五条に違反して自己取引をなしたること、その他不正行為をなした重大な事実はないか。

(三) 会社の財産状況如何

を検査事項として申立をなしたのである。

右検査役申請の理由中に詳述するように永安株式会社の現在の株式構成したがつて又抗告人その他四名の所有株数には重大な法令違反にもとずく株券発行を基礎とするものであつて本件役員選任を目的とする臨時株主総会は殊に抗告人等において累積投票の請求となす所存であるから「株式数の確定」は殊に慎重でなければならず、違法なる株式発行を基礎とすることはゆるされない。

五、殊に右昭和三十四年三月一日の株券発行は、本件の職務執行停止仮処分の本案たる無効なる株主総会により選任せられたる取締役三枝了が擅に発行しているのであつて株主も殆んどが右無効なる決議によつて選任せられ取締役となつているものであつて株券発行については決して善意の第三者とも云えず決議無効となれば遡及的に株券発行行為も無効となると考える。

六、その他前第四項検査事項(二)(三)の報告結果によれば新役員の選任についてもその報告を参考にし適正公正な役員選出をなさなければならない。

七、職務代行者選任の仮処分命令がだされた後も抗告人の会社会計帳簿の閲覧請求に対し職務執行停止中の代表取締役三枝了はその閲覧を拒否している実状であつて役員選任の議事の参考資料も抗告人は充分検討することができない事情である。

八、よつて本件の許可ありたる臨時株主総会は来る四月十三日の予定がある模様であるが抗告人の申請の検査役申請事件の終了後に開催せらるべく右四月十三日には到座右検査役申請事件は結了せざると考え、前記許可決定を取消され度く本抗告に及びました。

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